戸隠 西岳 で雪崩にあった話
バーン、前方から聞こえた その音から一瞬 間を置き
私の足元が崩れ とっさに振り返ると 登ってきた急斜面が眼前に迫り 自分が流されていることに気づいた
2016年の3月に西岳の第五峰にトライ
3月の中頃、平日休みを取り 戸隠西岳の5峰にトライしました。
その日は、前日まで降っていた雪はやみ、雲一つない青空が広がっていました。
品沢高原から西岳を見ると、5峰は最左翼に当たる場所です。
アプローチを開始し、雪の厚く積もった林道を進みます。気温も高く、汗をかくのでアウターの内側は可能な限り薄着にする必要がありました。
冬山登山の装備
足回りは、スカルパのモンブラン(冬靴)に、わかん+アイゼン
下は化繊の下着、ズボンはフリース アウターにゴアテックス
靴下はウール
上は、化繊の下着、ファイントラックのミドル、そしてアウターは、ゴアテックス
寒さ対策で、フリースの上着(モンベル)、化繊のダウン(ファイントラック)を持ってきました。
そして、ヘルメットにゴーグル、手には歩行用ピッケル2本(長いのと、短いの)スコップ、ゾンデ棒
登攀要素も加わるので、ロープとシットハーネス etc・・
もちろん、ビーコンも忘れずに。
戸隠連山について
戸隠連山は、長野市からアプローチしやすく、山の麓まで車で行くことが可能です。
そのため、アクシデントがあった際にも対処にかかる時間が短く、これに伴い、長時間危険エリアに滞在する時間が減るので、当然リスクも低減することができると言えます。
また、北信地区特有の豪雪地帯ということもあり、本格的な冬山登山を計画することもできるでしょう。
しかし、戸隠連山は 岩雪崩の記事でも書きましたが、岩質が大変もろい 特徴があります。
土砂が堆積して固まった岩質のようで、つかんで引っ張ると外れてしまうものも多いように感じます。
このような背景もあり、アルパイン要素の強い無雪期の西岳はほとんど登られていないと思います。(あくまで推測です)
また、標高自体も低いのでおそらく藪がかなり生えていると思います。
冬季には、雪がたくさん降ることで、藪がつぶれて、危険な崖には雪が付き道ができ、不安定な岩は氷により多少固定されていると思われます。
雪崩を予測できなかったのか
当時の記憶を頼りに、雪崩になりやすいと思われることを上げていきたいと思います。
雪崩発生の条件 雪質
前日には雪が降っており、表面にはべたべたの新雪が積もっていました。そしてこの新雪の下には、ザラメ雪になっていました。
そのため、アイゼンには新雪がこびり付き、靴の裏には10㎝程度の重たい雪の塊ができ、ピッケルで固まった雪を落としながら登ったのを覚えています。
急こう配のところで、雪玉を作り斜面に放り投げると、まるで、アニメのように、雪玉は斜面を転がるごとに周りに雪とくっつき、みるみる大きくなりました。
雪崩発生の条件 天候
先にも述べましたが、快晴で気温は高めだったと思います。そのため、新雪はベトベトになり、固まりになりやすいコンディションでした。
その代わり、とてもすがすがしい気分で、登り始めました。
因みに、冬の戸隠では、新潟県のように日本海側気候のため、曇りがちの日が多く 晴れの日は少なくなります。
雪崩発生の条件 地形と斜度
雪崩の発生した場所は、20~30m程度登れば尾根に出るような場所でした。
斜度は、40度は余裕であったと思います。
1歩1歩が、クライミングで言うところのスラブの乗り込みのようなムーブが必要になり、しっかり足元の雪をキックステップで蹴りこんで、スタンスを作り、両手に持ったピッケルの柄を雪面にしっかり差し込み、ホールドにします。
まさしく、”胸をつく急こう配とはコレのことだ!”と思ったのを覚えています。
とてもキツイ急登を 数100m こなしやっと尾根に出る!というタイミングで雪崩を発生させたのでした。
雪崩発生のその瞬間
流され、止まった地点から撮った写真。赤枠内を拡大したのが下の写真です。
雪崩の発生点 破断面
破断したラインが映っています。周囲に生えている木と比較すると、深さにして、60~70㎝程度の層が雪崩を起こしたと考えられます。
この時は、私とパートナーの2名での登山でしたが、先行はパートナーがラッセルを行い、私が、10m程度下方を登る形態をとっていました。
またロープを出して、確保なども行っていませんでした。
下から登っていると、斜度が徐々にきつくなるためロープを出すという選択肢が浮かびにくかったと思います。
もっとも支点として使えるものは無く、雪面にピッケルを差し込んで支点にするぐらいしか選択肢はなかったと思います。
冒頭にも書きましたが、雪崩発生のその瞬間は ”バーン”という破裂音がしました。
えっ⁉ コレまさか雪崩?と瞬間的に思い浮かびました。
それからわずかな時間(1秒もないくらいだと思いますが)がたった後足元が崩れ、今まで登ってきた斜面を、頭を下にし、腹這いで流されていきました。
流されている最中は、雪に埋まっており、視界ゼロ。真っ暗闇。
音は、”ゴォー”というような感じだったと思います。
まさか、自分が・・・ みんなこうやって死んでいったのか・・ パートナーはビーコン持ってなかったから俺見つけてくれるかな?等考える時間はたくさんあったように思います。
真っ暗闇の中で、ウォータースライダーを頭から滑り落ちる感覚
上記は、雪崩の後に私が一番近いと思う比喩です。
突然無音になりました。
段差を飛んだようです。
その直後みぞおち に衝撃を受け 接地その後も流され続けました。
その後、流れが緩んだ瞬間周囲の雪が固まるのを感じ、固定される恐怖に襲われました。しかし止まるかと思った流れは再び勢いが増していき、まだまだ流されていきました。
時間にすれば、30秒なのか?2分なのか?様々なことが脳裏をよぎったため時間経過は全くわかりません。
私が止まったのは、登攀していたところから、100mか?200mか?とにかく急登の取り付き付近まで流されていました。そしてほとんど雪に埋まることはありませんでした。
雪崩に遭遇しても助かった要因
あとから考えるとゾッとしますが、この時私が助かった原因を分析したいと思います。
雪崩から助かった要因1 岩や、木がなかった
流されている最中に、岩や、木に激突していたら大けが、もしくは死亡は免れなかったと思います。視界ゼロのウォータースライダーの世界で、避けることは不可能でしょう。
雪崩から助かった要因2 滝が無かった
段差程度はありましたが、落差の激しい滝があれば落下の衝撃も凄まじく、上に雪が積もることで生き埋めになる可能性も飛躍的に増加すると思われます。
雪崩から助かった要因3 谷が開けていた
地形的な要素になりますが、もし谷が細く、深い谷であれば、雪が集中し生き埋めにされる可能性が高かったと思いますが、私が流された場所は スキー場のように、下部は緩斜面で、開けていたため、雪が分散し埋まることがなかった。と思います。
上記のように、大変幸運な要素に恵まれていました。
最後に
私の経験は、大変恐ろしいけど、無事帰れて良かったね!というものですが、もしこれを読んでいる方で、冬山登山を考えている方には参考にしていただきたいです。
アバランチ講習というものも受けたことがありますが、
- 斜度が30度を超える
- 新雪などで雪質に層ができている
というのは特に雪崩リスクが増加するそうです。
私が流された雪崩も簡単にわかるレベルの層ができていたので、無理せずやめるべきだったともいます。なかなか登っている最中は、目の前の斜面と格闘しているとそういった事には気づきにくいものだと改めて感じます。
撤退するも勇気が必要ですね。
雪崩関連アイテム
ビーコン
私は、マムートを使っています 3モデルほど比較しています
メーカー | 探索範囲 | 重量 | サイズ | アンテナ数 |
マムート | 70m | 205g | 115x67x27 | 3 |
ビープス | 50m | 220g | 118x76x29 | 3 |
ブラックダイヤモンド | 50m | 210g | 115x75x28 | 3 |
BD社のアバラングエレメント
BD(ブラックダイヤモンド)社では、埋没時でも呼吸できるアイテムを開発しています。
ザックと一体になっているものもありますが、このユニット単体だけでも用意することができます。
雪崩時の埋没防止エアバック 付きザック
雪崩に巻き込まれると、雪崩の中では、人の体が雪の中に埋没してしまいます。そして流れが止まると、とたんに雪が固まり身動きが取れなくなってしまうのです。
エアバック付きのザックは、雪崩になった際にエアバックを膨らまし埋没&激突から身を守ってくれるアイテムです。
しかしながら、手で引く構造のため トリガーを引けなかったという人為的ミスもあるようです。
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