kubo's.blog Written by s-kubota

小豆島クライミング 拇岳ダイレクトルート完登編

クライミングエリア情報

2年ほど前拇岳のマルチピッチを行いましたが、残念ながら敗退してしまいました。

前回は、時間の都合上ピークを踏むことができなかっただけでなく、4ピッチ目を突破することができず、あえなくヌンチャクをつかんだためにフリーでの登攀も逃してしまい非常に悔しい思いをしました。これに対して今回(2025年11月)は、パートナー共々オールルートフリーで完登する事が出来ました。

今回完璧な形で完登できた理由は、前回の反省を生かしてルート攻略に臨んだことであったと思います。

このルートは、今までクライミングをしてきた中でも、ルートのすばらしさ、マルチピッチならではの恐怖心や感動など様々な感情を与え、私の記憶に強く残る1本だったと思います。

この記事では、前回の敗退との比較や、ダイレクトルート要所、そしてダイレクトルートの下降路についても説明しています。

ROCK&SNOW No.107で紹介された拇岳

小豆島クライミングが紹介されたロクスノ107号

ロクスノで紹介された拇岳のマルチピッチは赤いクラックというルートで、ダイレクトルートとは異なります。

ただし、駐車場は同じ場所になりますので参考になると思います。

拇岳でマルチピッチをする際の駐車場&アプローチについては敗退編で書いています。駐車場については下のリンクをご確認ください。

小豆島の拇岳マルチピッチクライミング【敗退】

拇岳の駐車場や、ダイレクトルートへのアプローチについてはこちらの記事を参照してください

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車から降りてからダイレクトルートの取りつきまでのアプローチについては、道中目印として赤矢印が書かれているのですが、ダイレクトルートには行けないので下の記事をよく読んでいただきたいです。

前回は、道間違いでずいぶん時間をロスしてしまい敗退につながりました。間違えなければ20分程度で駐車場からダイレクトルート基部まで歩けるはずです。

2回目のダイレクトルートに向けて準備したこと

前回の敗退した経験を基に以下3点を変更して、ダイレクトルートの完登を目指しました。

ギア

1ピッチ目のクラックパートでは出だしから5m以上プロテクションが取れないため、キャメロットの#1と#2のカムを1個ずつ準備しました。そのため安心してクライミングに専念でき、結果的に1ピッチ目にかける時間を短縮できたと思います。

1ピッチ目は体がすっぽり収まるクラックですが、奥はハンドジャムが決まるクラックがありカムもしっかり決まります。

拇岩1ピッチ目のクラックにキャメロットの#1のカムを決める

登攀順番

ダイレクトルートの核心である4ピッチ目を突破するための体力温存のために、2,3ピッチ目はパートナーN氏にトップを行ってもらうことにしました。

日程

前回はフェリーの時間の縛りがあったため敗退してしまいましたので、今回は2泊5日で計画し、時間の制約を日没まで長くすることにしました。(N氏のすばらしい計画)

ダイレクトルート概要

1ピッチは、クラック。2~5ピッチはフェイスであり(赤色)、下降路は裏面からFIXロープを使い岩を回り込んで取り付きに戻る(水色破線)ルートです。

拇岳ダイレクトルートとその下降路の概念図

1から4ピッチについては、敗退時の記事でルートを詳細に説明しているので、そちらをご覧ください。

下降地点から取り付き(スタート地点)への戻り方は、進行方向左側を岩に沿って歩くことで、ダイレクトルートの基部へ帰ってくることができます。

最後の歩きは、踏み跡が不明瞭の急斜面になるので、歩行用の靴があると良いと思います。歩くのは20分くらいだったと思います。

改めて感じたのは、拇岳からの眺望のすばらしさでした。ピッチごとに増していく高度感は最高です!

拇岳3ピッチ目の終了点から見る景色

また、ピッチごとのビレイステーションは、近代的なアンカーが設置されており、足場も安定しているのでしっかり休むことができます。

改めて感じた残念な点は、岩にもろい個所があり落石の懸念がある事です。

そのため、基部に置いた荷物はルート直下を避けたり、他のパーティーがいる場合はパーティーの存在に気を配る必要があります。

特に2ピッチ目のクラックの中には、大きめの板状の岩がぐらぐらしており、いつ落ちても不思議ではないように思います。下の写真より少し登ったあたりに浮石がいくつかでてきますので、岩をたたきながらホールドとして使ってよいか確認しながらの登攀をしました。

また、ルート上の多くのプロテクションは錆びたリングボルト、錆びたRCC、錆びたピトンがメインであり、基本的に落下は許されません。

唯一核心部の4ピッチ目は、ペツルのアンカーが設置されているので思い切ったトライができます。

拇岳ダイレクトルート核心部

他のブログ記事でも難しいと定評のある4ピッチ目の5.11bですが、今回はフリーで突破することができました。

核心部は節理のホールドが乏しい中でのクライミングになります。フットホールドは凸部や凹部を利用したスメアを何度か使います。岩が脆い場所もあるのでとても緊張しました。

あまりの緊張から体がガクガク震え、余計に落ちるイメージが膨らむ結果に。せっかくの素晴らしい高度感も、甘いホールドの前では緊張感を際立たせるスパイスになってしまいました。

4ピッチ目は、節理にそって高度を稼ぎつつ、ホールドが乏しくなったら隣の節理にトラバースするという、岩の弱点を突いて高度を稼ぐクライミングの王道ルートではないかと思います。

私が感じた核心は2か所あり、1つ目はルート中央部付近でのハング部からのトラバース。2つ目はルートの2/3あたりで出てくるホールドがわからなくなるポイントでした。

一般的に言われるダイレクトルートの核心は2つ目を指すと思います。

核心部を突破するためのポイント

1つ目の核心部については、フォローで登ってきたパートナーN氏によると、トラバースの開始地点が遅かったようです。ボルトを追って摂理を登りすぎ、ハング直下まで登ってしまうとトラバースが困難になるのでは?とのことです。

実際のぼると節理の形状的に左右方向のホールドが死角に入り直接見えなくなります。適切なトラバースポイントを見つけるためには、左右のホールドにも気を配る必要があります。

ところが、この地点はホールドが乏しく左右に気を配れるほど良いホールドも少ないのが苦しいところ。少しでも良いホールドが出てきたら、積極的にルートファインディングを行うとそこまで苦労しないのかもしれません。

2つ目の核心部を突破できたポイントは、クラック以外の場所でカチホールドを見つけられたことです。

2つ目の核心部の手前には、小さなテラス(節理がすっぱり切れてできた足場)があるため、しっかりレストすることができます。そのため、ちょっと上って様子をみてはテラスに戻るを繰り返すことである程度ルートファインディングしやすくなります。

ただし、そんなに良いホールドはないので、クライムダウンの際には気を使います。

結果的には、前述したルートファインディング方法では解決策を見つけることができなかったので、突っ込みながらルートファインディングすることになりました。

乏しいフットホールドにスメアで体重を乗せつつ、次なるホールドを探す作業は、自分の保持力が尽きる恐怖心との戦いといえます。

この戦いに勝利するためには、一刻も早くキーホールドを探し核心部を抜ける必要があり、そしてそのホールドはクラックではなく、フェイスにいたのです。

2つ目の核心でも、クラックだけに気をとらわれず、フェイスにあるホールドを見つけることが、ルート突破の成功を左右することになりました。ちなみにこのホールドは、岩に生えたコケのせいで凹凸がわかりにくいため発見が難しくなっていました。

リードの醍醐味はこのホールドを探すことと、それを見つけた時の喜びかもしれません。

保持力が失われていく中で何度も”テンション”を叫びたくなる衝動を押さえながらのクライミングは達成感もひとしおでした。

4ピッチ目のテラスは広く、完登できた時の充足感と疲労感とでしばし放心していました。

拇岳ダイレクトルート最終5ピッチ目

いままで未踏の地であった5ピッチ目ですが、4ピッチ目の終了地点から見える範囲を登るとルートが終わります。

ルートも易しく4ピッチ目に比べるとだいぶ気楽に登ることができました。

拇岳からの眺望

敗退からの完登による達成感の中で見る景色は美しく写真では伝えきれません。一人でも多くの方にクライマーだけが得られる感動を味わっていただきたいと思います。

拇岳からの下降路

ルートの終了点は、赤いクラックと同じになります。そして、岩の裏側へ回り込むと下降用の支点とFIXロープが出てきます。

ボルトが貧弱で心配になりますので、状態をよく確認したうえでFIXロープを使うようにしたほうが賢明です。

裏側は1ピッチ分ほどの高さを降りると地面が出てくるのでそこからは踏み跡に沿って降りていきます。

進行方向左手側に岩を見ながら進むとスタート地点に帰ってくることができます。

今回は2回目のトライという事もあり、スムーズにトライすることができました。また、有休をとり一緒にトライしてくれたN氏にも感謝しかありません。

拇岳のダイレクトルートは難しいピッチや脆いパートなどあり、一筋縄ではいかないルートだと思いますが、それを上回るだけの経験や感動を得ることができる素晴らしいルートだと思います。