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デービッド・アトキンソン氏による日本人の勝算

書評

中小企業が日本経済の成長の足かせになっている。その話を聞いた時私はにわかに信じられなかった。なぜなら私の働く工場も中小企業であるかだ

デービッド・アトキンソン氏

詳細はウィキペディアを確認していただくとして、私がこの”日本人の勝算”を読んで感じたデービッド氏の印象は、日本人が目をそむけたくなるような事柄を冷静に判断している。ということです。本書の中で、わたしは日本に骨をうずめる という表現をしていることから、日本に対して、愛着を持たれているようです。

出身は英国。本書は基本海外の論文を参考にしており、客観的に日本の置かれた経済的状況を判断しようとしている様子がうかがえます。ウィキペディアにもあるのですが、デービッド氏は、バブル崩壊後 銀行に大量の不良債権が眠っていることを見抜くなど、自身の観察眼も鋭いのです。ですが、本書においてはあえて自分の主張をミュートし海外の論文を参考に主張しているのが特徴です。

日本人の勝算 からの考察

日本の経済をドイツの貿易収支を比較して 愕然

ドイツは少ない人口で高い生産性

あなたは、ドイツの貿易額を調べたことはありますか?私がドイツについて調べた理由は、久保田由希著の”ドイツ人が教えてくれたストレスを溜めない生き方”を読み興味を持ったためです。

なぜそんなに興味を持ったのかといえばドイツでは4週間の休暇を取るのが当たり前、年の初めにみんなで好きなタイミングでとれるように日程調整するそうです。

ハッキリ言ってうらやましい。しかもなんでそんなに休めるの?しかもドイツ人は海外旅行もよく行っている印象もあります。

ということで JETRO のデータから主要なものを引っ張り出して比較すると下の表のとおり

日本とドイツの比較
輸出入、GDP、人口

ドイツのデータはこちら   日本のデータはこちら JETROのサイトへ飛びます。

ドイツでは、日本の1.7倍輸入して、2倍の輸出額です。つまりドイツは輸入品に高い付加価値を付けて輸出していることがよくわかりますね。しかも、人口は1億人を切っており少ない人口で高い生産性を保っていることの証明にもなります。当然GDPは日本よりも高くなります。

このデータを比較したときに愕然としました。おい 日本。何してんだ!と。

俺はこんなに残業して働いても給料全然上がらないし、自分の業界で明るいニュースはなく、会社の状況は全然良くならない。一体日本で何が起こっているのか?

日本の経済の現状を見直す 経済停滞の原因はどこにあるのか?

日本経済の足かせは中小企業 だと!

日本の産業をさえているのは、中小企業の技術力。この言葉を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか?ところが本書では真っ向否定しているのです。

概略は、中小企業が多いと革新技術が普及しない。なぜならば、新しい技術を導入するためには、人の教育が必要だが、500人未満の中小企業ではその余力がない。

革新技術とは、生産性を高める。言い換えれば、時給単価を上げる技術。ということだと思います。

中小企業の危機 その原因は ラストマンスタンディング利益

私の仕事での経験では、新規の仕事を取るためには他社よりも値下げするほかなく、結局お客様で評価するのは、価格。モノがよいと謳っても、お客さまの購買部門からしたら見積もりを出してきたということは、図面通りのものができるという判断になるようです。もちろん要求品質によっては、サプライヤーが限定される場合もありますが・・・

中小企業が受注するためには、利益率を下げ生産コストを下げるほかありません。まして、設備投資にお金を回してしまうと、コストにダイレクトにのっかってしまうので、昔入れた設備をいつまでも使い続け固定費を下げる。そしてギリギリの利益で仕事を取るという戦略しかありません。

このようなことを、10年以上に渡り行っているのです。これでは、技術革新に回すお金が生まれませんよね。

このような他社よりも安く作り、他社よりも長生きすることで、市場に生き残る方法を本書では ”last man standing利益”(ラストマンスタンディング利益)と呼んでいます。

完全にレッドオーシャンですね・・・

メガサプライヤーの必要性

日本では中小企業が多すぎる。ではどのような選択肢があるのか?といえば、ドイツのコンチネンタル社が行ってきたようにM&Aを進めて一つにまとまることと氏は指摘しています。まるで中華統一を掲げたキングダムの秦国のようです。

因みに、コンチネンタル社の売り上げは 約5.3兆円

日系メガサプライヤー

こういった背景でカーメーカーサプライヤー業界では、グループの巨大化が始まっています。 餅は餅屋に という言葉がありますが餅屋の成長が止まっていては世界で勝負できる魅力ある餅は作れない!餅の材料調達先や、梱包業者も集まって作戦会議だ!といったところでしょうか?

トヨタ系のメガサプライヤーといえばデンソー

トヨタ系のメガサプライヤーといえば デンソー社 売上は、5.108兆円

さすが世界第2位のデンソー社 奮闘していますね。

ホンダ系メガサプライヤーの台頭

昨年(2019年)ニュースになりましたが、ケーヒン・日立AMS・日信工業・ショーワの4社が合弁するというのも、トヨタ系に対抗する意味もあったのかもしれませんが、メガサプライヤー化しないと生産性の高い企業に成れない。という背景があったのではないでしょうか。

急降下直前の日本経済 活路はどこにあるのか

日本経済の現状は 日の出を迎えるつもりが 落日を見送る状態

日本のデフレ脱却は、高齢化+人口減少が強力なデフレ圧力となり、デフレからの脱却を防いでいるとデービッド氏は指摘しています。世界を見渡しても、高齢化は進んでいるものの同時に人口減少を引き起こしている国は、世界の経済論文を見回しても無いそうです。高齢化がデフレ圧力をかける原因になっていることを本書から一部紹介すると、

収入源の無くなった高齢者は、物価の上がることを嫌う。

よくわかる指摘だと腹落ちしました。

日本経済を立て直す方法は 最低賃金のアップ ?

最低賃金の底上げは失業者を増やす原因か

一般に賃上げを行うと、失業者が増える といわれているそうです。

なぜならば、企業が負担しなければならない人件費が増加するため、コストカットしなければならず、その結果労働者を減らす。という判断を下すはずだ!という主張があるためです。また扶養手当の観点から、パートタイマー目線では、年間の収入が増えすぎると扶養から外れてしまうため、労働時間を短縮せざるを得ないため、生産性が下がるという見通しもあるようです。

韓国での最低賃金引上げ政策では、急激な賃上げに市場の成長が追い付けず、経済が悪化してしまった事例があります。

韓国の最低賃金の引き上げ政策失敗のメカニズム

韓国では、日本同様に零細企業が多く 零細のため資金力がありません。急激な最低賃金アップは零細企業にとっては、労働者や、アルバイトへの給料の支払いに迫られ生産性を高める努力をする間もなく資金力が底をついてしまい、倒産に至ったようです。

イギリスの最低賃金引き上げ政策の効果

イギリスでは、一時期最低賃金を撤廃していました。最近では最低賃金を設定し、少しずつ最低賃金を引き上げているそうです。その結果企業の生産性は高まり全体とすると雇用人数も上がってきているそうです。

この調子で書き続けるとネタバレになってしまいますので、この続きは本書を手に取って読んでいただきたいです。デービッド氏が集めた論文をもとにまとめられた本書には、現在の日本経済の置かれた状況が説明されており、大変勉強になります。

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